【罪と罰の取調室】元ヤクザvsデカ「科捜研」へ送る「尿」をめぐりワル知恵炸裂!
【塀の中はワンダーランドVol.8】それは何の真似だ。チョキか?
◼️フェニルメチル・アミノプロパン塩酸塩
ドン! と音を立てて取調室のテーブルの上に置かれたポリ容器の尿は、黄濁した、よれよれの尿だった。そのあと、ボクは科捜研へ送られるポリ容器の尿についての手続きを取らされた。
まず、尿の入ったポリ容器の蓋に、関係者以外何人も勝手に開封してはならないという封印をさせられ、そこに指印をした。次いで「尿はいりません」という承諾書にサインをさせられた。この手続きが終わると科捜研へ送られていく。そして、シャブの元であるフェニルメチル・アミノプロパン塩酸塩が尿の中に含まれているかどうか調べられるのである。
もし、それが検出されて陽性となれば、法廷の除外理由がないのに使用したという証拠になり、検察庁から起訴されてしまうのだ。この間、おおむね一週間。通常のケースではこうなる。
しかし、警察で採尿する段階において、シャブを三度の飯のようにして喰っているジャンキー(中毒者)たちの中には、その手口がどうであれ、警察という虎穴から見事に脱出することもある。
◼️パンティの中にお茶・・・罪と罰の「間」のワル知恵
これは女のシャブ常用者であり、新宿界隈の華やかな夜の街の裏側をテリトリーにしているプッシャー(売人)なのだが、このジャンキー、なかなかの女っぷりで、その証拠に、街中を歩いていると、その筋の遊び人たちが「おっ!」と言って立ち止まり、振り返るほどなのだ。肩からは、いつもエルメスのブルーのエヴリンを提さげていて、周りからは「姐(ねえ)さん」と呼ばれている。
この女はいつもパンティの中にお茶を入れたビニール袋を忍ばせておいて、万が一、パクられたときでも、尿の代わりにそのお茶を、トイレに同行してきている婦警の目を盗んで、巧みにポリ容器に入れて提出するのだ。女の身体の構造上、それは容易なのだろう。
事実、何回もこの手口で助かったという。
あとで、生活安全課の連中がホゾを噛んで悔しがるのである。それにしても、何もそこまでやらなくとも……と思うが、パクられれば数年間は刑務所に入れられ、臭い飯を喰う破目になるのだ。
◼️陽性でも不純物混入で・・・セーフ
もう一つは、採尿するとき、デカたちの目を盗んで尿と一緒に煙草の葉などの不純物を混入させることもある。尿からシャブ反応が出ても、尿以外の不純物が入っていれば無効となるのだ。そこで慌てて再採尿しても、一週間が経過しているので、たいていは身体からシャブは抜け切っているのである。
吊り上げた眉毛をピクピクさせながら、係長が取調室の入口に姿を現わすと、机の上で鎮座しているポリ容器を見下して、負けずに言った。
「おい、サカハラ、ずいぶん味な真似してくれるな。何が名刺代わりだ。オレをバカにしてんのか、こんなに入れやがって……。お前のこのション便の色は、起訴してくださいと言っている色だぞ。悪事は見逃さない。わかったら、拳銃も出せ!」
側にいたイガグリ頭が、仏頂面で椅子に踏ん反り返るボクに向かって、「サカハラ、これ一本吸って入ろうか」
例のパーラメントの箱を「ポン」と机の上に放り投げてきた。
ボクは係長を睨みつけたまま、パーラメントの箱から一本抜き取り、口に咥えて火をつけた。そして思いきり紫し煙えんを吸い込み、入口に立っている係長へ、腹いせにフーッと吹きかけてやった。
「おっ、この野郎っ!」係長は気色ばんで、その紫煙を片手で払い除のけながら、忌々しいボクの態度に眉毛をピクピクさせた。
パーラメントは意外に旨かった。イガグリ頭は残り少ない貴重な煙草をボクにくれたのだ。留置係の担当官が四課にやって来て、留置場内はそろそろ飯の時間だと告げて去った。
「貴重な煙草、悪かったね」ボクはイガグリ頭に煙草の礼を言うと、「明日、ラークマイルド、買っておいといてくれよ」と頼んだ。
明日は、カード詐欺の件で弁録趣意書を取られ、身柄を八王子の地検へ送られる手続きを取らされることから、一日中係長と顔を突き合わせていなければならなかった。だから、タバコでもなければ、とてもやっていられなかったのだ。
(『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
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新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。